1. 新たなる幕開け

文・一番化戦略ライティング 吉田順一

『なんとか年越しましたが、正直、どうしょうもない経営状態です』

2018年1月29日午前11時、寺坂農園への経営支援を目的としたクラウドファンディングが開始された。募集期間は90日間。その告知の一報が発信されたのは、事件被害の公表と同じ寺坂農園と寺坂さん自身のSNSだった。

「Makuake(マクアケ)さんでは前例のない『事件被害の支援』というテーマで、桁違いの目標。どうなるか、全く読めませんでした。ただ、目標達成は難しくても、支援したいという方の援助が2~300万でも集まれば、『それだけでも、ありがたい』『助かるよね』と妻と話していました」

 明るい材料があるとすれば、今回の支援プロジェクトの資金調達のタイプだった。主に新規ビジネスへの支援を目的としたMakuake(マクアケ)では、他のクラウドファンディングで主流の目標達成時のみに資金調達が実施される「All or Nothing(達成後支援型)」だけではなく、集まった金額を全額受け取ることができる「All in(即時支援型)」の資金調達も行なっていた。支援者全員へのリターンが条件となるが、目標未達でも経営回復に向けた援助になることには変わりがない。

支援を依頼する以上、自らの手でもお願いしなければ。
寺坂さんは自身のSNSを通じて、支援プロジェクトへの協力を依頼した。

 事件発覚後、警察の捜査が入ったにも関わらず犯人は未だ捕まっていないこと、残りのハウスへの犯罪の可能性も否定できず、スタッフ総出で夜間の見回りなど警戒心が解けない日々が続いたこと。
半年が経過し農園にも平穏な日々が戻る一方で、事件被害による経済的なダメージで近い将来、経営難になることが分かっている現状。
仮に犯人が逮捕されても損害賠償請求や慰謝料請求ができる可能性が限りなく低い一方で、これからもメロンを育て全国にお届けする志事を、農業を続けていく気持ちに変わりはない事。

長い葛藤の末、『寺坂農園の存続が事実上、犯人による犯罪行為の結果の影響を受けている状況から脱し、再び、寺坂農園の存続を100%自分たちの手に取り戻したい』という思いに至り、支援プロジェクトを開始したこと。

Makuake(マクアケ)のHP上に掲載された支援プロジェクトのページには、その経緯と思いだけが切々と書き綴られていた。

 

「今まで名刺交換した方々が3,000人、フェイスブックなどSNSで繋がっている方々が7,000人くらい。最初の1か月目は、この方々にこうやって直接支援を依頼し続ける毎日が始まるだろう、そう思っていました。」

 だが、その予想は再び裏切られた。

支援プロジェクトへの協力を呼び掛けた投稿が、再び予想を超えたスピードで拡散され始めたからだ。

1月29日、開始1日目。ツイッターの「リツイート」6,385件、「いいね」2,298件。
同日のファイスブックの「いいね」778件、「シェア」183件。
1月30日、開始2日目。ツイッターの「リツイート」119件、「いいね」97件。
同日のフェイスブックの「いいね」515件、「シェア」15件。

投稿を呼んだ人間たちが「シェアします!」のコメントと共に、続々と寺坂農園への経営支援プロジェクトを自らの周囲に伝え、それに比例するように支援者の数も急速な右カーブを描いて伸び続けた。

『おはようございます。昨日からスタートしたクラウドファンディング。
皆さんからたくさんの応援・支援を頂き感激のスタートとなっています。ありがとうございます!』

出張先に向かう途上の空港で、寺坂さん自身も思わぬコメントを出す状況が生まれた。
その反響は、当事者である寺坂農園やクラウドファンディングの関係者が想像だにしなかった結果へと繋がった。

『支援額が1000万円超えました!クラウドファンディングをスタートし、開始2日で達成率60%を超えました。みなさまからの応援・ご支援に心から感謝しています。』

1月31日、開始2日目。ツイッタ-―の「リツイート」108件、「いいね」107件。
同日のフェイスブックの「いいね」785件、「シェア」30件。
集まった支援者の数839人、到達金額 10,075,000円。目標達成率は62%をマーク。
寄せられた応援コメントは450件以上にもおよんだ。

予想外が続く状況に、寺坂農園では驚きと喜びの声が溢れた。
「開始2日目で1,000万円超え!もうぶったまげて!社員たちも『良かったですね、社長!』と喜んでくれました。」

 続々と増え続ける支援者の数と支援額に、新たな課題も浮かんだ。

「開始3日目ぐらいからは、達成したらどうするの?という検討が必要になりました。 達成が見えてきたものの、本来クラウドファンディングには終了しました!という 仕組みが無い。目標金額を100パーセント達成しても、集まるならばそのまま募集が続くのが本来の姿。でも、今回は事件被害への支援が目的だから、そのままにしておくわけにはいきませんでした。」

ちょうどこの時、寺坂さん自身は熊本県農業法人協会から講演の講師として招かれ、熊本県を訪れていた。100名を超す参加者の前でこれまで培ったノウハウを語る一方、北海道とは真逆の九州の地にいるタイミングで想定外の事態に対応を迫られることとなった。

 関係者たちが驚く間にも、支援者が集まる勢いは留まる所を知らなかった。スマートフォンと連動してプロジェクトの達成金額をリアルタイムで表示する、Makuake(マクアケ)独自のバロメーターは目標達成率を更新し続け、SNS上でもその状況はリアルタイムでシェアされ、拡散され続けた。

「農家が人の金を頼るな!」「このプロジェクトを中止させろ!」という批判も予想通り、ネット上を飛び交った。だが、目標金額達成が迫るにつれ、バロメーターの数値はその批判すら振り切る勢いを見せ始めた。開始4日目が過ぎるころ、支援プロジェクトは目標金額の97パーセントを達成。そして、その日を迎えた。

 『目標支援額16,000,000円達成しました。応援・ご支援、ありがとうございます!!』
2月2日、開始5日目。ツイッタ-―の「リツイート」761件、「いいね」753件。集まった支援者の数1,422人、達成金額16,261,000円。公募期間を84日ほど残し、寺坂農園の支援プロジェクトは達成された。

 

 これって、夢じゃないよね?
朝を迎えるたび、寺坂さんは今もそう思って目を覚ますという。
起床後、枕元にあるスマートフォンを引き寄せ、現実だと何度も思い知らされる。
寺坂農園支援プロジェクト、集まった支援者の最終人数は1,655人。
クラウドファンディングの達成金額は1,862,5000円。
これが今、目の前に広がる現実だ。

 信じられない状況に喜んでいるのは、無論、寺坂さんだけではなかった。「妻は『いい人、いるじゃない!世の中、いい人ばっかりじゃない!』って、涙を浮かべながら頂いた応援のコメントに返信していました。」

夜中にたびたび目を覚ました日々も、きっと気づいていたに違いない。
結婚して以降、今も共に農園を支える妻の恵里さんもまた、事件後に悩み続けた自分の姿を見守り続けてくれた一人だったと、改めて感じていた。

 また、寺坂さんはこの結果を真っ先に報告に行った人たちもいた。
「達成して真っ先に報告したが、両親。自分のお父さん、お母さんです。達成した結果を印刷して、クラウドファンディングや反響を説明し、もう大丈夫だから!と。」
 昔、会社勤めの収入で家族を支えてきた父も、今は農園に関わってくれている。

「両親には、メロンの直売所を始めたことから心配をかけ続けてます。ほんの1年前には『今や息子たちは大成功している良かった!』と喜んでくれたのにその矢先でした。今回このようなテロ事件ともいえる大犯罪被害にあってしまい、ひどく心配をかけて続けてしまった。ですが、クラファンを通じて1,600万円を超える支援で元通りになることができ、やっと両親を安心させることができました。
 私は45才にもなって、まだ親に心配をかけている息子なんです。その両親を安心させられたのは、今回支援してくれた皆さんのおかげです!」

 寺坂農園支援プロジェクトは、現在、公募を終了している。クラウドファンディングの公募枠を全てゼロにすることで、寺坂農園では募集期間を残しながらもプロジェクトの終了を宣言した。寺坂さんの意図とは異なり目標金額を超えた支援額が集まったのは、この措置を取ったタイミングが要因だった。支援を達成したのが2月2日・金曜日。公募の終了の措置が稼働し、終了を宣言したのが翌週の2月5日・月曜日。運営会社が週末を定休日としていたため、土日の2日間は公募が受付できる状況となっており、通常のクラウドファンディング同様、目標金額を超えた支援が集まる結果となった。

 目標を超えた支援に関して、寺坂さんは『寺坂農園の警備体制の強化』の費用として使うことを、インターネットを通じて感謝と共に支援者に伝えた。事件の犯人が未だ捕まっていない現状では、農園で同じ状況が二度と繰りかえされないことが、関係者のみならず多くの支援者の願いだと考えたからだ。

 プロジェクト開始から、わずか5日間で目標金額への到達。その成功の要因は何だったのか?寺坂さん自身は、こう振り返る。

「(今回の成功の要因は)まず、極悪非道な犯罪だった、その被害者だったことです。悪戯がエスカレートしてしまった結果かもしれませんがビニールハウス6棟、メロン6,600玉が全滅というのは想像を超えています」

「また、スマートフォン、SNSという仕組みがあり、支援したいという皆さんと24時間繋がっていられる状況だったことも大きい。これまで直販農家として農業をやって、元々の繋がりがあった上での今回の結果だと思います。SNSでは、普段は喜ばれそうな記事も投稿しているので、SNSユーザーとしての信頼関係もあったと思います。」

 ちょうど20年前の1998年、アメリカで『トゥルーマン・ショー』という映画が公開された。離島に暮らすジム・キャリーが演じる主人公は、本人の知らぬままに生まれた時から日常の24時間を生中継され、TV越しに見る世界中の人間が主人公の人生に起こる脚本のないドラマにくぎ付けになるというストーリーだった。

 寺坂農園を襲った事件は、経済的な被害とともに農園の関係者たちの心や平穏な日常をも傷つけた、悪質な犯罪だった点に変わりは無い。だが、事件公表から始まる一連の経緯は、SNSという舞台で繰り広げられた、脚本のない一つのドラマだった。手元のモバイルを通して寺坂農園の投稿を見ているSNSユーザーにとっては、ライブカメラの中継を見ているに近い感覚を覚えたかもしれない。そしてTVや映画とは異なり、そのドラマには自分も簡単に参加できる事のできる仕組みも備わっていた。

 また、スマートフォンの対応を強化し、SNS上でのプロモーションを得手とするサイバーエージェント系列の企業が運営するクラウドファンディングだったことも大きな要素だった。SNSとも連動するMakuake(マクアケ)独自のバロメーターが刻々と上昇する達成金額の数値を伝え続けることで、寺坂農園に起きたドラマチックな展開はさらに強調された。

 

「そして、めったにない『助けて!』と言ったこと。 この農園には続けてほしい、頑張ってほしいという気持ちが集まったのも、日々の記事を読んでくれたからこそ、だと思います。」

 実際にクラウドファンディングの開始まで、SNS上で寺坂さん自身が事件被害に直接触れる投稿はほとんど無い。事件を公表した8月3日の投稿を除くと、その反響に応えた8月5日、事件被害による顧客へのキャンセル依頼について触れた9月5日、そして捜査の途中経過を報告した12月21日の計3回のみである。それゆえ、支援プロジェクトへの協力を呼び掛けた投稿が、さらに切実さを増して受け止められる結果となった。

 本人が触れなかった成功の要因が、もう一つある。毎日欠かさずに投稿され続けた、寺坂農園や寺坂さん自身の投稿の文体だ。事件公表後、農園に見学に訪れた帯広農業高等学校の生徒たちを前に、寺坂さんはインターネットと農業の関わり方に触れつつ、こんな話を伝えている。

『大切なのは、農業の現場で起きていること、感じていること、考えていることを伝えて、相手に伝わることが大事。伝えるだけじゃ、ダメですよー。伝わる、ように気持ちを込めて、感情も含めてしっかり書かなきゃ。しっかり情報発信すること、相手に共感してもらえることを大切にSNSやブログを楽しんでます。』

 自らの顧客に農園への興味を持ってもらおう。伝わることで、顧客との関係性を深めていこう。そう考えて、寺坂農園では楽しく読んでもらいつつ、自分の気持ちをこめた記事を投稿することをポリシーとしていた。

そして、確かに伝わっていたのだ。寺坂農園は、どんな人たちが営んでいるのか。どんな想いを持って、どんな姿で農業に向き合っているのか。そこでは、1年を通じて日々どんな出来事が起きているのか。

 その結果が、支援プロジェクトの達成金額という果実になって実った。多くの人間に窮状に陥っている状況を救済したい、この復活のドラマに関わりたいと思われる農園として認知されるに至っていたのだ。

 一つだけ、触れておきたいことがある。1,862,5000円という支援金額は寺坂農園の全ての経営課題を解決したわけではない、ということだ。

 

「確かに今回の支援で当農園の経営は回復しました。しかし、これは除草剤事件の被害から立ち直った、事件前の状況に戻ったということで農業法人として、経営の課題は目の前にあるのは変わりません。」

 大きなマイナスがゼロに戻った。ゼロに戻っただけ、とも言えるかもしれない。だが、それは寺坂農園にとって、今は大きな喜びとやり甲斐にも思える。

「これで本来やるべきことに、本当に向き合うことができます。ほんの6日前には想像もできませんでしたが、より一層美味しいメロンを作るという志事に100%、いや130%で向き合えるんです」
支援プロジェクトを終えた直後、寺坂さん自身はそう語った。

 寺坂農園にとって、クラウドファンディングとは何だったのか。支援プロジェクトを振り返って、寺坂さんはこう感じている。

「もう世界が変わった。支援プロジェクトの開始前と終えた今では、それほどの違いを感じます。本当に苦しい6か月でしたが、終わってみたら信じられないほどの助け合いの心とたくさんの愛を受け取り、大きな喜びに変わりました。この変化はクラウドファンディングが存在しなければ、ありえなかったと感謝しています。クラウドファンディングとは、人の持つ善意、応援の気持ちを具体的な支援として形にし、スムーズに流し込んでくれる繋がりを生む仕組みです」

例えるなら、それはメロンの接ぎ木に似ているかもしれない。わずか3mmにも満たない太さのメロンの苗同士を接ぎ合わせ、より強い根を地中に伸ばす苗へと生まれ変わるように、クラウドファンディングで多くの支援者と繋がった寺坂農園には、大きな愛と応援の力が注ぎこまれた。その力を確かな形で受けとったことで、農園は経営理念という根をより強く張りめぐらす企業へと変わっていくだろう。

「実はこれ以上、売上を伸ばすことは考えていないんです。今は会社と向き合い、磨いている段階。企業としての資金繰り、人手不足、社内評価や組織内のコミュニケーションなど、取り組んでいるのは一般的な中小企業の課題と変わりません。でも、これから6年ぐらいは売上よりも、経営理念を遂行し、より良い会社にしていくことに取り組んでいきます。
今後は、そこを見てください」

 支援プロジェクトで集まった資金は、莫大な損害を単にゼロに戻しただけではなかった。やがて春が訪れ、メロンの苗がすくすくと育つころ、そこにはクラウドファンディングで繋がった、様々な支援者の名前が付けられたメロンの株やビニールハウスが立ち並ぶ。そして立ち直った農園の姿を見に、支援プロジェクトによってさらに繋がりを深めた多くの人間が足を運ぶだろう。寺坂農園はより多くの人間の期待と想いを背負いながら進む、企業として新しいステージへと足を踏み入れることになった。

『久々の再会!!早く大きくな~れ』

2018年2月23日。寺坂農園のSNSに発芽したメロンの芽の画像が投稿された。
今年もまた、収穫期に向けてあの忙しい日々が戻ってくる。
事件被害を乗り越えた寺坂農園の、新たな幕が明けた。         (了)

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■追記(寺坂祐一)
記事を書いてくれたライターの吉田順一さんが取り組んでいるミッション『一番化戦略ライティング』の企業ページはこちらです(^^)
https://www.facebook.com/ichibankawriting01/

第一章 真夏の悪夢 

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第2章「一億円農家」の経歴と素顔..

第3章 炎上と沈黙と

第4章 一本の糸

北海道・富良野からおいしいメロン・野菜を全国にお届けし、お客様に「おいしいっ」と喜んでほしい』を理念と据え、産地直送に取り組む農業を続けています。